異なる方式の回転数計のテストと比較

2020/12/06

センサ

例年、TF再開までの間に機体の各種改修を行っていますが、今年はクランクの自作が計画されています。
それにともない、これまで使っていた光学式(透過型)のクランク回転数計が使えなくなるようなので、異なる方式の回転数計の組み込みを計画しています。
ちょうど2019年10月頃にいくつか異なる方式の回転数計をテストしていたので、これまでにフライトデータの取れている回転数計とあわせて、テスト結果をまとめておこうと思います。

パルスを発生させ、回転数に換算するもの

測定方法

パルスを用いた回転数の測定方法には、
  • パルスの数を数える直接計数方式
  • パルスの間隔を測定するレシプロカル方式
の2種類があります。
2つの方式のサンプリングレートと分解能にはトレードオフの関係があるので、目的に合わせて適切に選択する必要があります。

直接計数方式

単位時間に発生するパルスの数を数えるものです。
ゲート時間を一定にするので、サンプリングレートは一定となります。
分解能は、1回転あたりに発生するパルスの数が多くなるほど高くなりますが、パルスを多く発生させるためのスリット等の工作に手間がかかるようになります。

レシプロカル方式

発生するパルスの間隔を測定するものです。
サンプリングレートは、パルスがやってくる間隔で決まるため不定となります。
分解能は、パルスの間隔を測定するためのタイマー等の時間分解能で決まります。

実装方法

光学センサを用いるもの

  • 透過型フォトインタラプタ+スリット付き円盤
Team 'F' Nextz (Plus), Nextz Avant, ROKKO WORKS Beyondで採用しており、最も実績があるものです。
Team 'F' Nextz Avantの例を下の写真に示します。
Team 'F' Nextz Avantのクランク回転数計。スリット付き円盤と透過型フォトインタラプタ(外光を避けるための覆いの下にある)から構成される。
屋外で使う場合、外光が入りフォトインタラプタが誤動作することがあるので、
  1. 外光をさえぎる覆いをつける
  2. 赤外線LEDに多めの電流を流す
等の対策が必要です。
フォトインタラプタは秋月電子で購入しました(Sharp GP1A53HRJ00FPanasonic CNZ1023 [秋月リンク])が、スポット入荷品だったので手元にいくつか予備を確保しておく必要がありました。
フォトインタラプタにはフォトIC出力(たとえばSharp GP1A53HRJ00F)とフォトトランジスタ出力(たとえばPanasonic CNZ1023)等、いくつか種類がありますが、ギャップ幅・外形寸法等の条件が許せばフォトIC出力のもののほうがデジタル回路に接続する場合に気を使わないで済みます。
これまでに運用した機体では、歯数40程度のスリット付き円盤(クランク側の場合)を用意し、レシプロカル方式で測定を行いました。
定常回転数ではロガーのデータレートである25 sps以上の比較的高いサンプリングレートでデータが取得できるため、ペダリングの脈動も可視化できました。
  • 反射型フォトインタラプタ+ストライプパターン
2019年10月頃にテストを行いました。
透過型フォトインタラプタを反射型に変えたものです。
実験には、下の図に示す黒と白で塗り分けたストライプ状のパターン(コンビニのコピー機で印刷)と反射型フォトインタラプタROHM RPR-220(秋月電子で購入)を用いました。
用意したストライプパターン。黒と白の領域の大きさは1, 2, 5, 10, 20 mmとした。
[黒, 白] = [2, 2] mmとしたパターンの上をセンサを数mm離して滑らせた際の出力電圧をオシロスコープで測定したものが下記の図です。
反射型フォトインタラプタでストライプパターンを走査した際の電圧出力。反射型フォトインタラプタの電源電圧は5 V、赤外LEDの電流制限抵抗は100 Ω、負荷抵抗は3 kΩとした。
多少立ち上がり・立ち下がりが鈍っているものの、デジタルICの入力に十分なH/L電圧が出力されています。
(ヒステリシスコンパレータ等で波形整形を行うのが理想的だとは思います。)
反射型フォトインタラプタを使う場合は、ストライプパターンとセンサの距離が離れると位置分解能が低下するので、ある程度両者を近づける必要があります。
(きちんと測定していませんが、後述の磁気センサ+片面多極着磁ラバー磁石よりは距離を離せる印象でした。)
今回は直線状のストライプパターンを用意しましたが、クランクに取り付けることを考慮した場合、円形のパターンを用意することも可能です。
こちらも屋外で使用する際には透過型と同様の注意を払う必要があると思われます。

磁気センサを用いるもの

  • 磁気センサ+片面多極着磁ラバー磁石
2019年10月頃にテストを行いました。
反射型フォトインタラプタで光学的に行っていたパルスの生成・計測を磁気的に行うものです。
実験には、株式会社二六製作所ラバー磁石を用いました。
二六製作所にはオンラインショップもあるので、必要なものを1個から購入することができます。
購入したものは着磁ピッチの最も小さいRST46 フェライトラバー 520×10×0.4(等方性)です。
着磁の様子を磁界観察シートで可視化したものが下の写真です。
磁界観察シートで可視化したラバー磁石のストライプパターン

ストライプ状に着磁されている様子がわかります。
磁気センサをこのラバー磁石の上を滑らせ、出力をオシロスコープで測定すると、下の図のような波形が得られました。
磁気センサをラバー磁石の上を走査した際の電圧出力。磁気センサの電源電圧は5 Vとした。
磁気センサとしては、アナログ出力ホールICのAllegro MicroSystems A1324LUA-T(秋月電子で購入)を用いました。
デジタル回路との接続を考慮して、デジタル出力のホールIC Ablic S-5716ACDL0-M3T1U(秋月電子で購入)でも同様のテストを行いましたが、磁場の大きさが十分でないのかパルスが出力されませんでした。
また、磁気センサとラバー磁石の距離を離すと急激に信号が減衰しました。
(おそらく典型的には着磁ピッチの距離程度が磁場を拾える範囲かと思います)
この実験の結果から以下のようなことが言えます。
・磁気センサと片面多極着磁ラバー磁石の組み合わせで磁場の変化の検出は可能。
・回転数の測定には正弦関数的な信号をパルスに変換する必要がある。
(おそらく、センサを接続することになるCypress PSoC 5LPでは内部のアナログ・デジタル回路を用いることで可能。)
・機体に搭載する場合は、できる限りセンサとラバー磁石の間隔を近づける必要がある。
・ラバー磁石は、円筒状のものに巻き付けて使用する必要がある。できれば、ラバー磁石のつなぎ目で着磁ピッチが乱れないようにする。
ということで、似たような方法の反射型フォトインタラプタを用いた光学式に比べて実装がより難しいような印象を受けました。
  • 磁気センサ+単極マグネット
自転車のサイクルコンピュータで速度やクランク回転数の測定によく使われていますが、人力飛行機でも使用しているチームがあったように記憶しています。
自転車の場合は、スポークやクランクに磁石を固定し、フレーム側に磁気センサ(手元のCATEYE ストラーダケイデンスではリードスイッチ)を取り付けることが多いです。
1回転に1度しかパルスが発生しないため、実用的なサンプリングレートで測定するためには必然的にレシプロカル方式を採用することになります。

角速度が直接出力されるもの

測定方法

センサから角速度が直接出力されるため、単位を換算する程度(たとえばdpsからrpm)で回転数を求めることができます。

実装方法

慣性センサを用いるもの

  • ジャイロセンサ
Team 'F' Nextz AVANTで試験的に使用しています。
自動可変ピッチユニットの制御部にはHPA_Navi IIIが搭載されているため、オンボードのジャイロセンサ(TDK/Invensense MPU-9250)でプロペラ回転数をサンプリングレート100 spsで測定しました。
透過型フォトインタラプタを用いた方式との比較を下の図に示します。
透過型フォトインタラプタとジャイロセンサで測定したプロペラ回転数の比較
透過型フォトインタラプタを用いたものと同様のデータが取れています。
また、データを時間方向に拡大してみると、サンプリングレートが高いことによりペダリングの脈動の様子をより詳しくとらえられていることもわかりました。
さらに、透過型フォトインタラプタのデータではレシプロカル方式を採用していることから、低回転時のサンプリングレートが落ちていますが、ジャイロセンサでは一定のサンプリングレートが確保できています。
上に示したデータはプロペラ回転数のものですが、以前作製したひずみゲージ基板にもジャイロセンサを載せるスペースを確保しているので、同様にクランク回転数の計測も可能かと思われます。
ジャイロセンサによる計測を行う場合、パイロット用の表示器には無線を使ってデータを飛ばす必要があるため、データの伝送には十分な注意を払う必要があります。

まとめ

いくつかの回転数計のテストを行いましたが、回転数のサンプリングレートや分解能、実装の容易さ等の点で異なる方式の間でかなり差がありそうです。
Team 'F' Nextz Avantで要求されているのは、
  1. 狭いスペースに組み込める
  2. 脈動が可視化できる程度の時間・回転数分解能を持つ
  3. パイロット表示器に確実にデータを送れる
の3点なので、1., 2. の要求をジャイロセンサによる計測で、3.の要求を磁気センサ+単極マグネットによる計測で満たすのがよいように思います。
他に検討すべき項目として、センサの消費電流等もあるので、さらに詳しく検討を行い、搭載する回転数計を決定したいと思います。