推力測定器の作製

2020/12/20

センサ

2020年度のテストフライトからNextz Avantに推力測定器を導入しました。

2019年12月頃から構想が始まり、仕様が固まったのは2020年3月上旬、2020年6月21日のテストフライトから運用を開始しています。

自動可変ピッチユニットの場合と同様に、機構部の設計等は作業場に来るメンバが、電装部品の取り付け・校正等は私が担当しました。

データの取得自体はうまくいっていますが、後述の通り校正作業の一部に困難があるため、推力の値にどの程度の確度が出ているかには不明な点も残っています。

以下に作製した推力測定器の詳細について解説したいと思います。

機構

推力測定器の3Dモデル・断面図を下の図に示します。

推力測定器の3Dモデル。灰色の部品が起歪体、青色の部品がケースでそれぞれプロペラハブ、プロペラシャフトにつながり、両者は12本のボルトで固定される。丸数字で示したのはひずみゲージを貼り付ける位置。青が推力、緑がトルクに対応する。
推力測定器の断面図。
構成としては、4本の梁からなるロードセルをプロペラドライブシャフト・プロペラハブ間に挟み込めるようにしたものです。

起歪体に推力用8枚、トルク用16枚のアルミ用ひずみゲージ(東京測器研究所 FLAB-03-23)を貼り、2つのホイートストンブリッジを構成しています。

下の写真に機体への取り付け状況を示します。

機体への取り付け状況。プロペラシャフトには±45度のひずみゲージを2枚貼り、こちらでもトルクを測定している。

トルクはドライブシャフトに±45°の複合材用ひずみゲージ(東京測器研究所 BFCA-5-3)を2枚貼ることでも測定しています。

センサ

作製した基板の写真を以下に示します。

クランクひずみ測定用に製作した基板(上・緑)と推力測定器用に作製した基板(下・白)の比較。推力測定器のケースのサイズに合わせて基板サイズに変更し、アナログ-デジタル変換器・リニアレギュレータ等の部品も性能の高いものに変更している。アンチエイリアスフィルタは未実装。上の基板では一部の部品が裏面に実装されていて取り付けの支障になるので、新しい基板では片面実装に変更した。

ホイートストンブリッジの出力電圧をアナログ-デジタル変換し、無線でデータロガーに送信するというものです。

基本的には以前製作したクランクパワーメータとほぼ同じです。

しかし、推力測定器ではサイズの制約が異なるのと、新しいアナログ-デジタル変換器(Texas Instruments ADS124S08)等の部品を使いたかったので基板を新たに設計しました。

ひずみゲージの配線の様子を下の写真に示します。

ひずみゲージの配線の様子。ひずみゲージと配線の間はゲージ端子TF-2SSで中継している。起歪体上の配線にはポリウレタン銅線を、起歪体からケースに延びる配線には架橋ポリエチレン電線を使用した。配線の固定はデンタルフロスで行った。ひずみゲージは弾性接着剤(セメダイン スーパーX)で保護している。

今回は、ホイートストンブリッジを構成するための配線が比較的長くなり、配線の温度変化による見かけひずみの影響がありそうなので、配線に使用する線材にも気を配りました。

起歪体側の配線には0.65 mm径のポリウレタン線を、基板側の配線は0.3 mm^2の架橋ポリエチレン電線を用いています。

比較的太めの線材を用いることで、ひずみゲージの抵抗変化に対する銅線の抵抗変化の割合を小さくしています。

計算上は14℃の温度変化(これまでのテストフライトで測定した最大値)があった場合でも、ホイートストンブリッジを構成する配線長の現実的な誤差の下で、推力・トルクのドリフトが定常時の0.5%以下に抑えられます。

校正作業

アナログ-デジタル変換器から出力されるデータと、推力・トルクの値を関係づけるために校正作業を行いました。

2つのホイートストンブリッジの出力電圧に対応するログが得られますが、推力・トルクの値はこのデータに2 x 2の校正行列をかけることで得られます。

校正行列の非対角要素が推力-トルク間のクロストークに対応します。

推力

推力の校正は推力測定器に錘を乗せる等して行いました。

下の写真に校正作業の様子を示します。

推力の校正作業の様子。錘を吊るして行った。校正治具には錘を吊るすフックがいくつか取りつけられており、荷重中心がずれた場合の影響も測定した。
校正作業は、推力のプラス側・マイナス側、荷重中心をずらした場合など、いくつか条件を変えて行いました。
典型的な荷重-アナログ-デジタル変換器出力のグラフを以下に示します。
推力校正曲線の一例。荷重に対してアナログ-デジタル変換器出力が線形に変化している。負荷(青)と除荷(赤)の間のヒステリシスはほとんど見られない。
校正作業の結果をまとめると以下のようになります。
  • 荷重に対してアナログ-デジタル変換器出力は線形に変化
  • 校正係数の標準誤差は0.1%
  • 推力のプラス側・マイナス側の校正係数の差は0.4%
  • 負荷・除荷間のヒステリシスは十分小さい 
  • 荷重中心をずらしたときのアナログ-デジタル変換器出力の変化は最大1% 

トルク

トルクの校正は下の写真のような校正治具を作製して行いました。

トルクの校正治具。モーメント印加用のアルミパイプとばねばかりはターンバックルでつながっており、ターンバックルのねじを締めることによって印加トルクを変える。
校正作業の結果の一例を以下の図に示します。
トルク校正曲線の一例。負荷(青)と除荷(赤)の間で若干ヒステリシスがあるが、トルク印加による治具の変形が原因として考えられる。
校正作業の結果をまとめると以下のようになります。
  • トルクに対してアナログ-デジタル変換器出力はおおむね線形に変化
  • 校正係数の標準誤差は時計回り0.8%, 反時計回り2%
  • 時計・反時計回りトルクの校正係数の相対誤差は0.5%
  • 負荷・除荷間でヒステリシスが若干ある
  • 時計・反時計回りを切り替えた際にオフセットが変化する 
最後の点はおそらく機構側に原因があるようですが、現在のところはっきりとした原因はわかっていません。

また、大きな反トルクがかからなければオフセットはほとんど変化しないことがわかっているので、運用上はあまり問題になっていません。

前述の通り、トルクの測定はプロペラシャフト側でも行っていて、2つの方法での測定値がほぼ一致することも確認できています。

推力→トルク間クロストーク

推力→トルク間のクロストークの校正は、推力のみをかけた状態でのトルク出力を解析することで行いました。

ここでは、起歪体に対して(ほぼ)垂直に荷重を印加した場合にかかるごくわずかなトルクもクロストークとして扱っているので、求まるのはクロストークの最大値となります。

校正作業の結果を以下の図に示します。

推力→トルク間クロストークの測定。縦軸のトルクのゼロ点は補正していない。
この結果から、推力30 Nでトルク0.2 Nm程度のクロストークが生じることがわかりました。

フライトログからトルクを求める際にはこの校正係数も考慮します。

トルク→推力間クロストーク

トルク→推力間のクロストークもトルク校正データから求めることを試みてみましたが、推力測定器に対しトルクのみをかけるのが非常に難しく、今のところ信頼できる校正係数は求まっていません。
校正治具のアルミパイプの上側・下側にターンバックルをかけ、クロストークの上限値・下限値を求めることはできましたが、両者の差はかなり大きなものでした。
起歪体のFEM解析によれば、トルク→推力間クロストークは十分に小さいので、現在のところは校正行列のトルク→推力間クロストーク成分を0にして解析を行っています。

まとめ

一部の校正係数が実験的に求まっていないものの、今シーズンのテストフライトでは作製した推力測定器を用いて推力・トルクのデータを蓄積することができました。
蓄積したデータをうまく活用することで、プロペラ推力のほかにも機体空気抵抗、駆動効率、プロペラ効率等を明らかにできるのではないかと思います。